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宇宙サイバーセキュリティとは?衛星をねらう脅威と対策を解説

宇宙安全保障

この記事のポイント

宇宙サイバーセキュリティは衛星と地上システムをサイバー攻撃から守る取り組み。ジャミングやスプーフィング、地上侵入、供給網攻撃などの脅威に対し、経済産業省のガイドラインや国際規格ISO/TS 20517を土台に対策が進む。

宇宙サイバーセキュリティとは?衛星をねらう脅威と対策を解説

「宇宙のサイバーセキュリティが重要と聞くけれど、衛星がどんな攻撃を受け、どう守られているのかがよくわかりません」

こうした疑問に答えます。

本記事の内容

  • 宇宙サイバーセキュリティの意味と守る対象
  • 衛星や地上システムをねらう主なサイバー攻撃
  • 経済産業省のガイドラインなど対策の枠組み

宇宙サイバーセキュリティとは、人工衛星やそれを支える地上のシステムを、サイバー攻撃から守る取り組みのことです。

この記事を読むことで、宇宙サイバーセキュリティがなぜ必要とされ、どのような脅威にどう備えているのかを整理して理解できます。まずは基本の意味から見ていきましょう。

宇宙サイバーセキュリティとは

宇宙サイバーセキュリティとは、宇宙防衛の一環として、人工衛星やそれを支える地上のシステムを、サイバー攻撃から守る取り組みです。衛星は宇宙にあるため物理的な防護が難しく、通信やソフトウェアを通じた攻撃に狙われやすい特徴があります。ここでは宇宙サイバーセキュリティの意味と、対象となる宇宙システムの構成、そして重要とされる理由を整理します。

宇宙サイバーセキュリティの意味

宇宙サイバーセキュリティとは、衛星や地上設備で構成される宇宙システム全体を、サイバー攻撃や不正アクセスから防護する概念です。特定の製品や技術を指すのではなく、設計から運用までを通じた総合的な守りを意味します。

対象は宇宙にある衛星だけではありません。防衛省の宇宙状況監視などに用いられる衛星に指令を送る地上の管制システムや通信回線、データを処理するシステムまでを含めて、一体で守る点が特徴になります。

宇宙システムを構成する要素

宇宙サイバーセキュリティを理解するには、守る対象である宇宙システムの構成を知ることが欠かせません。経済産業省は宇宙システムを複数のサブシステムに分けて整理しています。

構成要素主な役割
衛星本体宇宙空間で観測や通信、測位などを担う
衛星運用システム衛星へコマンドを送り運用を管理する
衛星通信システム通信や放送の送受信処理を行う
衛星データ利用システム観測画像などのデータを処理し提供する
開発・製造システム衛星や地上設備を設計し製造する

これらの要素は相互に連携して動きます。衛星は運用システムからの指令に従って動き、取得したデータは通信システムやデータ利用システムを通じて利用者へ届けられます。

宇宙分野でセキュリティが重要とされる理由

宇宙分野でセキュリティが重要とされる理由は、衛星サービスが社会や経済の基盤を支えているためです。通信や測位、気象観測、金融取引の時刻同期まで、多くの活動が衛星に依存しています。

衛星が攻撃で使えなくなると、その影響は生活や産業の広い範囲に及びます。宇宙サイバーセキュリティ市場は2025年の約55億ドルから2026年には約62億ドルへ拡大すると見込まれ、対策への関心の高まりを示しています。宇宙は妨害や侵入の影響が大きい領域として、防護の重要性が年々増しています。

宇宙システムをねらうサイバー攻撃の脅威

宇宙システムへのサイバー攻撃は、電波を使った妨害から地上設備への侵入まで多岐にわたります。攻撃者は衛星本体だけでなく、通信回線や地上局、部品の供給網まで幅広く狙います。ここでは代表的な四つの脅威を整理します。

通信を妨害するジャミング

ジャミングとは、衛星の通信や測位に使う電波と同じ周波数の強い電波を送り、正規の信号を受信できなくする妨害です。物理的な破壊を伴わずに、通信や位置測定を機能不全にできる点が特徴になります。

測位信号は宇宙から届くため出力が弱く、比較的小さな装置でも妨害を受けやすい性質があります。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、こうした妨害が船舶や航空機にも影響を与えたと報告されています。

信号をなりすますスプーフィング

スプーフィングとは、偽の信号を送って受信側をだますなりすまし攻撃です。ジャミングが信号を遮断するのに対し、スプーフィングは誤った位置や時刻を信じ込ませる点が異なります。

項目ジャミングスプーフィング
手口強い電波で信号を妨害する偽の信号でなりすます
受信側の状態信号を受け取れなくなる誤った情報を正しいと誤認する
主な影響通信や測位の停止位置や時刻の誤り

ウクライナでの戦闘では、偽の衛星信号でドローンを誤った位置へ誘導し墜落させる事例が確認されています。攻撃を受けた側は異常に気づきにくいため、被害の発見が遅れやすい脅威です。

地上システムへの不正侵入

衛星を操る地上の管制システムや通信回線も、サイバー攻撃の標的になります。地上設備はインターネットに接続されることが多く、衛星への直接攻撃よりも低コストで侵入できる場合があります。

攻撃者が管制システムに侵入すると、衛星の制御を奪われたり、送受信されるデータを盗み見られたりする危険があります。宇宙システムは宇宙と地上が一体で動くため、地上側の防護を怠ると全体が危険にさらされます。

サプライチェーンをねらう攻撃

衛星や地上設備は多くの部品やソフトウェアで構成され、その供給網も攻撃の対象になります。製造や開発の段階で不正なプログラムを仕込まれると、運用開始後に悪用される恐れがあります。

近年は安価な電子部品やオープンソースソフトウェアの利用が広がり、混入の経路が増えています。信頼できる部品の調達や、開発工程での検証が対策として重要になります。

宇宙サイバーセキュリティの主な被害事例

宇宙サイバーセキュリティの必要性は、実際に起きた被害事例からもよくわかります。通信の停止から情報の流出まで、被害の内容はさまざまです。ここでは代表的な三つの事例を取り上げます。

通信衛星モデムへの攻撃

代表的な事例が、2022年に起きた通信会社Viasatの衛星ネットワークへの攻撃です。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月24日に発生し、多数の利用者が通信を失いました。

攻撃者は管理用ネットワークの設定不備を突いて侵入し、利用者のモデムに不正な指令を送って機能を停止させました。この攻撃はウクライナだけでなく欧州全域にも波及し、ドイツでは風力発電の遠隔監視ができなくなるなど、社会インフラにも影響が及びました。地上の管理システムがねらわれた点が、この事例の教訓になります。

探査機関連ネットワークへの侵入

2018年には、NASAのジェット推進研究所のネットワークが不正侵入を受けました。許可なく接続された小型のコンピューターが侵入口となり、およそ10か月にわたって気づかれないまま情報が盗み出されました。

流出したデータには火星探査に関する情報が含まれ、その量は約500メガバイトに達したとされています。探査機と通信する深宇宙ネットワークにも影響が及び、正規の手続きを経ない機器の接続が大きな穴になることを示しました。

暗号化されていない衛星通信の問題

攻撃だけでなく、通信そのものの脆弱さも問題になっています。セキュリティ研究者は、市販の安価な機材で静止軌道上の複数の衛星の通信を受信できたと報告しています。

受信した通信の多くが暗号化されておらず、内容が第三者に読み取れる状態でした。衛星通信は広い範囲に電波を届けるため、暗号化を怠ると傍受のリスクが高まります。通信の保護は宇宙サイバーセキュリティの基本といえます。

宇宙サイバーセキュリティの対策とガイドライン

宇宙サイバーセキュリティの対策は、国のガイドラインや国際規格を土台に進められています。衛星と地上を一体で守り、官民や国際的な連携で支える点が特徴です。ここでは主な対策の枠組みを見ていきます。

経済産業省の対策ガイドライン

日本で対策の指針となるのが、経済産業省の民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドラインです。2022年に初版が公表され、2024年3月にVer2.0へと改訂されました。

このガイドラインは、宇宙システムを取り巻くリスクを整理し、全組織に共通する対策と宇宙システム特有の対策をまとめています。Ver2.0では対策を確認するチェックリストに加え、事業者が使える情報セキュリティ関連規程のひな形も新たに用意されました。

NIST CSFと国際規格の活用

対策の設計では、広く使われる枠組みを活用する動きが進んでいます。経済産業省のガイドラインには、米国のサイバーセキュリティフレームワークであるNIST CSFと、宇宙システム特有の対策との対応関係を示した表が添付されています。

国際的には、2024年7月に宇宙システム向けの規格ISO/TS 20517が発行されました。これはサイバーセキュリティの管理に関する要求事項や推奨事項を定めたもので、衛星やロケット、地上設備までを対象にしています。

衛星と地上システムそれぞれの対策

宇宙システムは衛星と地上が一体で動くため、対策も両面で必要になります。衛星側は限られた計算能力の中で、搭載機器の脆弱性対策や通信の暗号化、妨害への備えが求められます。

地上側では、運用や通信、データ利用の各システムで対策が必要です。代表的なものにクラウドなどの外部サービスの設定不備の防止や、安全なプログラム作成があります。

対象主な対策
衛星本体搭載機器の脆弱性対策、通信の保護、妨害への備え
運用・通信・データ利用システム外部サービスの設定管理、安全なプログラム作成
開発・製造システム供給網の管理、開発工程での検証

官民や国際連携による取り組み

宇宙サイバーセキュリティは一社だけで守り切れないため、連携が欠かせません。国内では経済産業省が日本の航空宇宙防衛市場を支える産業界と協力し、宇宙産業のワーキンググループでガイドラインを整備してきました。

国際的にも、脅威情報を共有する枠組みづくりが進んでいます。攻撃者が国境を越えて活動するため、各国や事業者が情報を持ち寄り、宇宙システムを守る取り組みが広がっています。

まとめ:宇宙サイバーセキュリティは衛星と地上を一体で守る取り組み

ここまで、宇宙サイバーセキュリティの意味と脅威、被害事例、対策の枠組みまでを見てきました。宇宙サイバーセキュリティとは、衛星と地上のシステムをサイバー攻撃から守り、宇宙の安定した利用を確保する取り組みです。

本記事のポイントをおさらいします。

本記事のポイント

  • 宇宙サイバーセキュリティは衛星と地上を一体で守る取り組み
  • 脅威はジャミングやスプーフィング、地上侵入、供給網攻撃など多様
  • 経済産業省のガイドラインや国際規格が対策の土台になる

この記事を通じて、宇宙サイバーセキュリティがなぜ必要とされ、どのように備えられているのかを整理して理解できたはずです。宇宙が生活と経済の基盤となる以上、その防護の重要性は今後さらに高まります。

宇宙開発や宇宙サイバーセキュリティの最新動向についてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。関連する資料もご用意していますので、あわせてご活用ください。

宇宙サイバーセキュリティに関するよくある質問

参考文献

  1. 民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン Ver 2.0(経済産業省)
  2. 産業サイバーセキュリティ研究会 宇宙産業サブワーキンググループ ガイドライン Ver 2.0(経済産業省)
  3. ISO/TS 20517:2024 Space systems Cybersecurity management requirements and recommendations

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執筆者

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「宇宙ビジネスを、ビジネスとして読む。」をコンセプトに、国内外の宇宙産業(衛星・ロケット・宇宙データ・月面開発等)の動向を追う専門記者・アナリスト集団。AI時代に信頼される一次情報源を目指し、ファクトとデータに基づく客観的な分析・解説を日々お届けします。

監修者

Space With リサーチチーム
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リサーチチーム

専門アナリストらと提携し、データ収集・分析を行うSpace Withの専門調査部門。国内外の宇宙政策、政府予算、資金調達動向、技術トレンドの定量的な分析とファクトチェックを行い、本メディアが配信する情報の信頼性と客観性を担保します。

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