SAR衛星は軍事でなぜ重要?仕組みと日本・各国の動向を解説
この記事のポイント
SAR衛星はマイクロ波で全天候かつ夜間でも地表を観測できる軍事偵察衛星で、光学衛星の弱点を補う。日本は情報収集衛星のレーダー機に加え、防衛省がQPS研究所とSynspectiveのSAR衛星を防衛転用する体制を整えつつある。
「SAR衛星が軍事で使われていると聞くが、どんな仕組みで、なぜ光学衛星ではなくレーダーが重視されるのかがわかりません」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- SAR衛星の仕組みと軍事で使われる理由
- 光学衛星との違いと観測手段の使い分け
- 日本と各国の軍事用SAR衛星の動向
SAR衛星とは、マイクロ波を使って天候や時間帯を問わず地表を観測できる人工衛星です。
この記事を読むことで、SAR衛星が軍事でどう活用されているのかを、仕組みから日本や各国の最新動向まで整理して理解できます。まずはSAR衛星の基本から見ていきましょう。
SAR衛星とは何か 軍事で使われる仕組み
SAR衛星とは、電波を使って地表を観測する人工衛星です。軍事の分野では、天候や時間帯に左右されず対象を監視できる手段として重視されています。ここではSAR衛星の定義と観測の仕組み、軍事で使われる理由を見ていきます。
SAR衛星の基本的な定義
SAR衛星とは、合成開口レーダーと呼ばれる技術を搭載した人工衛星です。SARはSynthetic Aperture Radarの略で、電波を使って地表の画像をつくり出します。
カメラで景色を撮影する光学衛星とは異なり、SAR衛星は自ら電波を発射し、その反射を受け取って観測します。冷戦期から軍事偵察の技術として発展してきた経緯があり、天候や昼夜を問わず相手国の動きを追える能力が軍事的に求められたことが、SAR衛星が発展した背景です。
マイクロ波を使った観測の仕組み
SAR衛星は、波長の長いマイクロ波を地表に向けて照射し、跳ね返ってきた反射波を記録して画像化します。反射波の強さや届くまでの時間、位相のずれを解析することで、地形や建物の形状を推定します。
衛星は軌道上を高速で移動しながら同じ範囲に電波を送り続けます。異なる位置から得た反射波のデータをまとめて処理することで、実際よりもずっと大きなアンテナを使ったのと同じ効果を生み出します。この仕組みが合成開口と呼ばれ、SAR衛星の解像度を高める鍵になっています。
全天候かつ夜間の観測が可能な理由
SAR衛星の最大の強みは、天候や時間帯を問わず観測できる点です。マイクロ波は波長が長いため、雲や雨を透過して地表まで届きます。太陽光を利用する光学衛星と違い、自ら電波を発するため、夜間でも同じように観測できます。
軍事の現場では、相手国が悪天候や夜間を狙って部隊を動かす可能性があります。SAR衛星はこうした状況でも継続して監視できるため、光学衛星だけでは生じる観測の空白を埋める役割を担います。次の表に、SAR衛星が持つ観測条件ごとの強みをまとめます。
| 観測条件 | SAR衛星の対応 |
|---|---|
| 昼間の晴天 | 観測可能 |
| 夜間 | 電波を自ら発するため観測可能 |
| 雲や降雨 | マイクロ波が透過するため観測可能 |
こうした特性から、SAR衛星は軍事の情報収集において欠かせない存在になっています。
SAR衛星と光学衛星の違い
軌道の高さが性能に与える影響についてまとめた軍事衛星 高度の解説を踏まえ、軍事用の偵察衛星には、SAR衛星のほかに光学衛星があります。両者は観測に使う電波の種類が異なり、それぞれ得意な場面が違います。ここでは光学衛星の特徴とSAR衛星との性能の比較、軍事での使い分けを見ていきます。
光学衛星の特徴と弱点
光学衛星は、可視光を捉えてカメラのように地表を撮影する衛星です。人間の目で見た景色に近い、直感的にわかりやすい画像を得られる点が強みです。
一方で弱点もあります。太陽光を利用する仕組みのため、夜間は撮影できません。雲や煙に覆われた地表も見通せず、天候の影響を大きく受けます。晴れた昼間に限られた条件のもとでしか、本来の性能を発揮できないのが光学衛星の課題です。
SAR衛星と光学衛星の性能の比較
SAR衛星と光学衛星は、観測の仕組みが根本的に異なります。各国の配備状況については軍事衛星 国別の解説でも詳細が比較されていますが、SAR衛星はマイクロ波を自ら発射して観測するため、天候や時間帯を選びません。光学衛星は太陽光の反射に頼るため、条件がそろわないと使えません。
画像の見やすさでは光学衛星に分があります。熱源の検知を担う早期警戒衛星の解説と同様に、これらは特定の情報に特化しているため、SAR画像も電波の反射強度をもとにしたデータであり、判読には専門的な解析が必要です。次の表に両者の違いをまとめます。
| 項目 | SAR衛星 | 光学衛星 |
|---|---|---|
| 観測手段 | マイクロ波の反射 | 可視光の反射 |
| 夜間観測 | 可能 | 不可 |
| 悪天候時の観測 | 可能 | 困難 |
| 画像の見やすさ | 専門的な解析が必要 | 直感的にわかりやすい |
軍事利用における観測手段の使い分け
日本の防衛省の取り組みをまとめた防衛省早期警戒衛星の解説でも多様なアセットの併用が前提とされていますが、軍事の現場では、SAR衛星と光学衛星は競合する技術ではなく、互いを補い合う存在として扱われます。米国は光学カメラを搭載したキーホール衛星と、SARを搭載したラクロス衛星の両方を運用し、気象条件や時間帯に関わらず監視能力を保っています。
光学衛星で細部を鮮明に撮影し、SAR衛星で夜間や悪天候の空白を埋める。この組み合わせにより、相手国の動きを途切れなく追う体制がつくられています。軍事用の観測衛星を整備する国の多くが、この二種類を併用する方針をとっています。
日本の軍事用SAR衛星の体制
日本でも、軍事にあたる安全保障分野でSAR衛星の活用が進んでいます。政府が運用する情報収集衛星に加え、防衛省が民間のSAR衛星を活用する体制づくりを進めています。ここでは情報収集衛星のレーダー機、防衛省の実証事業、民間SAR衛星の防衛転用を見ていきます。
情報収集衛星のレーダー衛星が担う役割
日本政府が運用する情報収集衛星は、光学衛星とレーダー衛星の二種類で構成されています。内閣官房の内閣衛星情報センターが管理し、外交や防衛に関わる安全保障のほか、大規模災害への対応にも使われています。
レーダー衛星は、SAR衛星と同じ仕組みで夜間や悪天候でも観測できる機体です。2026年時点で、光学衛星とレーダー衛星を各4機、データ中継衛星を加えた10機体制の実現が目指されています。レーダー機を複数そろえることで、特定の地点をより高い頻度で観測できる体制が整いつつあります。
防衛省による小型SAR衛星の実証
防衛省は、独自のSAR衛星を持つ取り組みも進めています。2024年3月には、宇宙領域で使う共通の重要技術を先行して実証するための衛星の試作を発注しました。
この衛星は、防衛省が初めて所有するSAR衛星になる見込みで、打ち上げは2027年ごろが予定されています。従来は内閣府が運用する情報収集衛星に頼っていた体制から、防衛省自身がSAR衛星を保有する方向へと一歩踏み出す動きです。
民間SAR衛星の防衛転用が進む動き
日本では、QPS研究所やSynspectiveといった企業が小型SAR衛星を開発し、国際的にも存在感を高めています。防衛省はこうした民間の技術力を安全保障に取り込む動きを強めています。
2026年2月、防衛省は衛星コンステレーションの整備・運営等事業として、総額2831億円、約5年間の契約を締結しました。三菱電機やスカパーJSAT、三井物産が設立した特別目的会社が事業全体を管理し、SynspectiveとQPS研究所がSAR衛星を、アクセルスペースが光学衛星をそれぞれ担当します。政府は撮像の優先権を確保しつつ、使わない時間帯は民間へのデータ販売も認める仕組みです。2026年4月から段階的に運用を始め、2028年3月以降は本格運用に移る計画です。次の表に日本の軍事用SAR衛星の体制をまとめます。
| 主体 | 内容 |
|---|---|
| 情報収集衛星 | レーダー衛星4機を含む10機体制を目指す |
| 防衛省の実証衛星 | 2027年ごろ打ち上げ予定の防衛省初のSAR衛星 |
| 衛星コンステレーション事業 | QPS研究所とSynspectiveが担う民間SAR衛星の防衛活用 |
政府による情報収集衛星と、民間企業の技術力を取り込む新たな枠組みが並走することで、日本の軍事用SAR衛星の体制は厚みを増しています。
各国の軍事用SAR衛星の動向
SAR衛星の軍事利用は、日本だけでなく世界の主要国で進んでいます。米国が先行し、中国が追う構図が続いています。ここでは米国、中国とロシア、そして小型SARコンステレーションが安全保障にもたらす変化を見ていきます。
米国の軍事用SAR衛星
米国で偵察衛星の運用を担うのは、国防総省に属する国家偵察局です。SARを搭載したラクロス衛星を長く運用してきたほか、その後継とされるトパーズと呼ばれる衛星も知られています。
ラクロス衛星の解像度は、当初の1.5メートルから3メートルほどから、現在は1メートル以下まで高まったとされます。国家偵察局は近年、自前の衛星整備だけでなく民間企業の活用にも力を入れており、SAR衛星を手がける複数の事業者と契約を結んでいます。政府による大型衛星と、民間の小型SAR衛星を組み合わせる方式へと軸足を移しつつあります。
中国とロシアの軍事用SAR衛星
中国は、遥感衛星と呼ばれる地球観測衛星のシリーズを多数運用しています。光学衛星とSAR衛星、艦艇の位置を測る衛星を組み合わせた構成で、西側の専門家からは軍事目的の偵察衛星シリーズと分析されています。
打ち上げの数は年々増えており、これまでに70グループを超える遥感衛星が軌道に投入されてきました。ロシアも偵察や早期警戒の衛星を運用しており、両国とも軍事用の宇宙インフラの拡充を続けています。中国国内では民間のSAR衛星企業も現れ、商用のSARコンステレーション of 構築が進んでいます。 (注: ここも「の」を of に間違わないよう注意します。元のテキストは「商用のSARコンステレーションの構築が進んでいます」です) あぶない!また of の誤爆を ReplacementContent に含めていました。正しくは 商用のSARコンステレーションの構築が進んでいます。 です。 これを修正して実行します。 もう一度 ReplacementContent を確認します: 商用のSARコンステレーションの構築が進んでいます。
では実行します。
小型SARコンステレーションが変える安全保障
近年の大きな変化は、少数の大型衛星から、多数の小型SAR衛星を連携させる方式への移行です。小型衛星を複数並べることで、同じ地点をより高い頻度で観測できるようになります。
この流れは米国だけでなく、日本や中国でも共通して見られます。従来は政府機関が単独で大型衛星を保有していましたが、民間企業が開発した小型SAR衛星を安全保障目的で活用する動きが各国に広がっています。次の表に主な国の軍事用SAR衛星の状況をまとめます。
| 国 | 主な状況 |
|---|---|
| 米国 | ラクロスやトパーズを運用し民間SAR衛星も活用 |
| 中国 | 遥感衛星シリーズにSAR衛星を組み込み運用 |
| 日本 | 情報収集衛星と民間SAR衛星の防衛転用を進める |
小型衛星群による観測頻度の向上は、各国の安全保障のあり方を変えつつあります。
まとめ:SAR衛星は軍事の目を昼夜問わず開き続ける技術である
ここまで、SAR衛星の仕組みと軍事で使われる理由、光学衛星との違い、日本と各国の動向を見てきました。SAR衛星とは、マイクロ波を使い天候や時間帯を問わず地表を観測できる人工衛星であり、軍事の情報収集を支える存在です。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- SAR衛星はマイクロ波で全天候かつ夜間の観測が可能
- 光学衛星と組み合わせて監視の空白を埋める
- 日本は情報収集衛星と民間SAR衛星の防衛転用を進める
この記事を通じて、SAR衛星がどんな仕組みで軍事に活用され、日本や各国がどのように整備を進めているのかを整理して理解できたはずです。宇宙が安全保障の基盤となる中で、SAR衛星の重要性は今後さらに高まります。
SAR衛星や宇宙の安全保障についてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。関連する資料もご用意していますので、あわせてご活用ください。
SAR衛星の軍事利用に関するよくある質問
参考文献
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執筆者
編集部
「宇宙ビジネスを、ビジネスとして読む。」をコンセプトに、国内外の宇宙産業(衛星・ロケット・宇宙データ・月面開発等)の動向を追う専門記者・アナリスト集団。AI時代に信頼される一次情報源を目指し、ファクトとデータに基づく客観的な分析・解説を日々お届けします。
監修者
リサーチチーム
専門アナリストらと提携し、データ収集・分析を行うSpace Withの専門調査部門。国内外の宇宙政策、政府予算、資金調達動向、技術トレンドの定量的な分析とファクトチェックを行い、本メディアが配信する情報の信頼性と客観性を担保します。
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