宇宙飛行士選抜試験とは?倍率2064倍の内容と応募資格を解説
この記事のポイント
宇宙飛行士選抜試験はJAXAが実施し、書類選抜から第3次の閉鎖環境試験まで複数段階で行われます。2021年度に学歴要件が撤廃され、直近第6回の倍率は約2,064倍。今後はおおむね5年に1回程度の募集が方針です。
「宇宙飛行士選抜試験って、どんな内容でどれくらいの倍率なのだろう。学歴に自信がなくても、自分に挑戦する資格はあるのかな」。そんな疑問に答えます。
本記事の内容
- 選抜試験の実施主体と実施周期
- 応募資格と試験の流れ・内容
- 過去の倍率と次回への準備
宇宙飛行士選抜試験は、書類選抜から閉鎖環境試験まで複数段階で行われ、直近の倍率は2,000倍を超える難関です。
2021年度からは学歴要件が撤廃され、多様な経歴の人に門戸が開かれました。挑戦への一歩を踏み出すために、まずは試験の全体像を知ることから始めましょう。
宇宙飛行士選抜試験とは
宇宙飛行士選抜試験は、日本人宇宙飛行士の候補者を選ぶための試験です。国際宇宙ステーションでの活動や月探査を担う人材を、応募者の中から選び抜きます。ここでは試験の実施主体や周期、選ばれた人の立場を整理します。
選抜試験を実施するJAXAの役割
日本の宇宙飛行士選抜試験を実施するのは、宇宙航空研究開発機構、いわゆるJAXAです。JAXAは日本の宇宙開発を担う国立研究開発法人で、宇宙飛行士の募集から選抜、訓練までを一貫して担当します。
選抜試験で選ばれた人は、まずJAXAの宇宙飛行士候補者となります。その後の基礎訓練を経て、正式に宇宙飛行士として認定される流れです。
JAXAはアメリカ航空宇宙局のNASAをはじめ、各国の宇宙機関と協力しながらミッションを進めます。選抜された候補者も、国際協力の枠組みの中で活動する前提で選ばれます。
選抜試験が実施される周期
宇宙飛行士選抜試験は、毎年実施される試験ではありません。過去の実績を見ると、数年から十数年に一度という不定期な開催が続いてきました。直近の第6回募集は、前回の2008年から数えて13年ぶりの実施でした。
JAXAは2021年度の募集にあたり、今後はおおむね5年に1回程度の頻度で定期的に募集を続ける方針を示しています。定期的な募集は、意欲ある人が複数回の応募機会を得られる点で重要とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | JAXA(宇宙航空研究開発機構) |
| 直近の実施 | 2021年度から2022年度にかけて |
| 前回からの間隔 | 約13年ぶり |
| 今後の方針 | おおむね5年に1回程度 |
選抜試験で選ばれる候補者の位置づけ
2021年度からの募集では、諏訪理さんと米田あゆさんの2名が宇宙飛行士候補者に決まりました。この世代は、月を目指すアルテミス計画に関わる可能性から、アルテミス世代の宇宙飛行士とも呼ばれています。
選ばれた候補者に期待される主な活動は、次のとおりです。
- 国際宇宙ステーションでの長期滞在ミッション
- 月周回有人拠点ゲートウェイでの活動
- 月面での探査活動
候補者は選抜後すぐに宇宙へ行くわけではありません。約2年の基礎訓練を修了し、宇宙飛行士向井千秋のように、その後にミッションの割り当てを受けて初めて宇宙飛行のチャンスを得ます。
宇宙飛行士選抜試験の応募資格
宇宙飛行士選抜試験の応募資格は、2021年度の募集で大きく変わりました。かつては理系の大学卒業が必須でしたが、その学歴要件が撤廃されたためです。ここでは学歴、実務経験、医学的特性、語学力の4つの条件を確認します。
学歴に関する条件
2021年度の募集では、学歴に関する条件がありません。それまでの募集で求められていた自然科学系の4年制大学卒業以上という要件が撤廃されました。この変更により、文系学部の出身者や、大学を卒業していない人でも応募できるようになりました。
学歴不問での募集は、日本の宇宙飛行士選抜試験として初めての試みでした。学歴よりも、宇宙飛行士としての適性や光る才能を重視する方針への転換を意味します。
実務経験に関する条件
学歴要件がなくなった一方で、実務経験は引き続き求められます。2021年度の募集では、2022年3月末の時点で3年以上の実務経験を有することが条件でした。
学位を持つ場合は、実務経験の一部として換算されます。具体的な扱いは次のとおりです。
| 保有する学位 | 実務経験としての換算 |
|---|---|
| 修士号 | 1年分 |
| 博士号 | 3年分 |
換算を活用すれば、博士号取得者は実務経験そのものがなくても応募資格を満たせます。専門性の高い研究歴も評価される仕組みであり、将来の宇宙飛行士の年収やキャリアパスにも関わってきます。
医学的特性に関する条件
宇宙飛行士は特殊な環境で任務にあたるため、健康状態に一定の基準が設けられています。2021年度の募集で示された主な医学的特性は次のとおりです。
- 身長は149.5センチメートルから190.5センチメートルの範囲
- 遠距離視力は両眼とも矯正視力1.0以上
- 色覚が正常であること
- 背後2メートルの距離で普通の会話が聞き取れる聴力
これらの基準は、宇宙船や宇宙服の設計、船外活動での安全確保、さらには安全な宇宙から帰る方法などに関わります。矯正視力が認められる点など、以前より条件が緩和された部分もあります。
語学力に関する条件
宇宙飛行士は国際的なチームで活動するため、英語力が欠かせません。国際宇宙ステーションの共通言語は英語であり、訓練や運用の多くが英語で進みます。
2021年度の募集では、英語での意思疎通ができる能力が求められました。選抜試験の過程でも、英語での面接やプレゼンテーションを通じて語学力が評価されます。応募時点で完璧である必要はなく、訓練を通じて伸ばせる素地が重視されます。
宇宙飛行士選抜試験の流れと内容
宇宙飛行士選抜試験は、書類選抜から最終選抜まで複数の段階を踏みます。2021年度からの試験は、書類選抜と第0次から第3次までの選抜で構成され、通過には約10か月を要しました。ここでは各段階の内容を順に見ていきます。
書類選抜で確認される項目
最初の関門が書類選抜です。応募者はエントリーシートと、健康診断書などの必要書類を提出します。この段階で応募資格を満たしているかどうかが確認されます。
2021年度の募集では4,127名が応募し、書類選抜を通過したのは2,266名でした。応募者の半数以上が次の段階へ進んだ計算になります。エントリーシートでは志望動機や経歴が問われます。
第0次選抜で問われる一般教養とSTEM
第0次選抜は、オンラインで実施される試験です。内容は、秋山宇宙飛行士も活躍した日本の宇宙開発の歴史から幅広く出題される一般教養試験と、理工系分野の知識を問うSTEM試験の2種類に分かれます。STEMは科学、技術、工学、数学の頭文字を取った言葉です。
学歴不問となったぶん、宇宙飛行士になるには不可欠な基礎的な学力がこの段階で確認されます。オンライン形式のため、全国どこからでも受験できる仕組みが取り入れられました。
第1次選抜の筆記試験と医学検査
第1次選抜では、より本格的な筆記試験と検査が行われます。筆記試験は人文科学や社会科学の一般教養に加え、数学、物理、化学、生物、地学、宇宙開発に関する専門知識まで幅広く問われます。
あわせて心理検査や医学検査も実施されます。宇宙という極限環境に耐えられる心身かどうかを、多角的に評価する段階です。
第2次選抜の面接試験
第2次選抜の中心は、複数回にわたる面接試験です。1つの面接だけでなく、目的の異なる面接が組み合わされます。主な面接の種類は次のとおりです。
- 志望動機などを問う一般面接
- 専門知識を確認する専門面接
- 人格や資質を見る心理面接
- 英語力を測る英語面接
面接を通じて、知識だけでなく、宇宙食ラーメンのような宇宙特有の話題への関心、人柄やコミュニケーション能力が総合的に判断されます。
第3次選抜の閉鎖環境試験
最終段階の第3次選抜では、閉鎖環境試験が実施されます。2022年から2023年の第6回では、筑波宇宙センターの閉鎖環境適応訓練設備で、約6日間の共同生活を送りました。外部と隔絶され、試験官に監視された空間での評価です。
課題は個人課題と集団課題に分かれます。集団課題ではチームに分かれて月面探査ローバーを製作し、個人課題では自己アピールなどが課されました。国際宇宙ステーションでの長期滞在を模した環境で、ストレス耐性や協調性、リーダーシップが見極められます。あわせてNASAのジョンソン宇宙センターでの試験も行われました。
宇宙飛行士選抜試験の倍率と難易度
宇宙飛行士選抜試験は、日本で最も難関とされる試験の1つです。直近の第6回では倍率が2,000倍を超え、その狭き門ぶりが注目を集めました。ここでは過去の倍率の推移と、難易度が高い理由、次回への備えを解説します。
過去の選抜試験における倍率の推移
日本の宇宙飛行士選抜試験は、1985年の第1回から2022年の第6回まで計6回実施されました。各回の応募者数と選抜者数、倍率は次のとおりです。
| 回 | 応募者数 | 選抜者数 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 533名 | 3名 | 約177倍 |
| 第2回 | 372名 | 1名 | 約372倍 |
| 第3回 | 572名 | 1名 | 約572倍 |
| 第4回 | 864名 | 3名 | 約288倍 |
| 第5回 | 963名 | 3名 | 約321倍 |
| 第6回 | 4,127名 | 2名 | 約2,064倍 |
第6回は応募者数が過去最多となり、倍率も一気に跳ね上がりました。第5回までは数百倍の水準でしたが、第6回で2,000倍超という異例の数字を記録しています。
倍率が高くなる理由
第6回で倍率が急上昇した背景には、応募資格の緩和があります。学歴要件の撤廃によって応募できる層が広がり、応募者数が前回の約4.3倍に増えました。
もう1つの理由が、選抜される人数の少なさです。1回の募集で選ばれるのは数名にとどまります。門戸が広がった一方で採用枠は限られるため、結果として倍率が高くなります。
次回の選抜試験に向けた準備
JAXAは今後、おおむね5年に1回程度の頻度で募集を続ける方針です。次回の具体的な時期は決まっていませんが、この方針どおりなら数年以内の実施が見込まれます。あくまで方針であり、確定した予定ではない点に注意が必要です。
次回に向けてできる準備として、次のような取り組みが挙げられます。
- 3年以上の実務経験を積み、専門性を高める
- 英語での意思疎通ができる力を養う
- 健康を維持し、医学的特性の基準を意識する
学歴で門前払いされることがなくなったため、民間企業出身の大西卓哉宇宙飛行士のように、多様な経歴の人にチャンスがあります。日頃からの積み重ねが、狭き門を突破する土台になります。
まとめ:宇宙飛行士選抜試験は狭き門でも挑戦の門戸は広がっている
本記事では、宇宙飛行士選抜試験の実施主体や周期、応募資格、試験の流れ、そして倍率までを解説しました。JAXAが実施するこの試験は、書類選抜から第3次の閉鎖環境試験まで、約10か月をかけて候補者を選び抜きます。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 選抜試験はJAXAが実施し今後はおおむね5年に1回程度が方針
- 2021年度から学歴要件が撤廃され実務経験と適性を重視
- 直近の倍率は約2,064倍と最難関だが多様な経歴に門戸が開いた
試験の全体像をつかめば、漠然とした憧れが具体的な目標に変わります。学歴に自信がなくても、実務経験や英語力、健康の維持といった準備を積み重ねることで、挑戦の土台を築けます。
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宇宙飛行士選抜試験に関するよくある質問
参考文献
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執筆者
編集部
「宇宙ビジネスを、ビジネスとして読む。」をコンセプトに、国内外の宇宙産業(衛星・ロケット・宇宙データ・月面開発等)の動向を追う専門記者・アナリスト集団。AI時代に信頼される一次情報源を目指し、ファクトとデータに基づく客観的な分析・解説を日々お届けします。
監修者
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専門アナリストらと提携し、データ収集・分析を行うSpace Withの専門調査部門。国内外の宇宙政策、政府予算、資金調達動向、技術トレンドの定量的な分析とファクトチェックを行い、本メディアが配信する情報の信頼性と客観性を担保します。
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