宇宙飛行士とは?仕事内容やなり方・年収から選抜試験まで解説
この記事のポイント
宇宙飛行士は宇宙での実験や運用と地上業務を担う専門職で、日本ではJAXAの選抜試験に合格し約2年の基礎訓練を経て認定される。2021年から学歴不問となり、2026年時点で日本人は歴代14名、現役6名。活躍の場は国際宇宙ステーションから月へと広がっている。
「宇宙飛行士に憧れはあるけれど、実際にどんな仕事で、どうすればなれるのか、自分にも可能性があるのか知りたい」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- 宇宙飛行士の仕事内容と求められる資質
- 選抜試験や訓練などのなり方の全体像
- 日本人宇宙飛行士の現状と今後の展望
宇宙飛行士は、JAXAの選抜試験に合格し訓練を積めばめざせる専門職で、2021年からは学歴を問わず挑戦できるようになりました。
本記事を読むことで、宇宙飛行士という仕事の全体像がつかめ、自分に何が必要かが見えてきます。宇宙開発が月へと広がる時代の一歩として、ぜひ最後まで読み進めてください。
宇宙飛行士とは
宇宙飛行士とは、有人の宇宙船やロケットで宇宙へ向かい、国際宇宙ステーションなどで実験や船体の運用に携わる専門職です。地上約400kmという極限環境で任務を遂行するため、高度な知識と訓練が求められます。
たとえばJAXAの宇宙飛行士は、宇宙での実験だけでなく、地上での装置開発やサポート業務まで幅広く担当します。ここでは宇宙飛行士の定義、活躍する場所、役割の種類という3つの視点から全体像を整理します。
宇宙飛行士の定義
宇宙飛行士とは、宇宙飛行のための訓練を受け、宇宙船の乗組員として認定された人を指します。英語では「アストロノート」と呼ばれ、ロシアでは「コスモノート」という呼称が使われます。
国際的な取り決めでは、高度100kmを超える宇宙空間へ到達した人が宇宙飛行士とみなされてきました。日本では、JAXAの選抜試験に合格し、約2年間の基礎訓練を修了して正式に認定された人が宇宙飛行士と呼ばれます。
宇宙飛行士が活躍する場所
宇宙飛行士の主な活動の舞台は、地上から約400km上空を周回する国際宇宙ステーションです。ここでは各国の飛行士が数か月にわたり長期滞在し、微小重力を生かした実験や観測を続けています。
2026年時点では、活動の場が地球周回軌道から月へと広がりつつあります。アメリカが主導するアルテミス計画では、月を周回する有人拠点「ゲートウェイ」の建設や、半世紀ぶりとなる月面着陸が計画されています。
宇宙飛行士の種類と役割
宇宙飛行士には、ミッションでの担当に応じたいくつかの役割があります。国際宇宙ステーションの時代では、チーム全体を指揮する船長と、それを支えるフライトエンジニアという分け方が基本です。
船長はクルーの安全と健康を管理し、緊急時の対応や地上管制との調整を取りまとめるリーダーの役割を担います。フライトエンジニアは、システムの点検や保守、ロボットアームの操作、船外活動、実験運用などを幅広く受け持ちます。
| 役割 | 主な担当 |
|---|---|
| 船長(コマンダー) | クルーの統率、安全管理、緊急時の指揮、地上との調整 |
| フライトエンジニア | システム保守、ロボットアーム操作、船外活動、実験運用 |
かつてのスペースシャトル時代には、船長、パイロット、搭乗運用技術者、ペイロード専門家という細かな職種分けがありました。現在は多くの飛行士が複数の役割を兼ねる形へと変わっています。
宇宙飛行士の仕事内容
宇宙飛行士の仕事は、宇宙空間での任務と地上での業務の両方にわたります。宇宙にいる期間よりも、地上で訓練や準備に取り組む期間のほうが圧倒的に長いのが実態です。
宇宙での主な任務は、実験、システムの運用と保全、船外活動の3つに大きく分かれます。ここではそれぞれの仕事内容に加え、宇宙での日常生活まで具体的に見ていきます。
宇宙での実験や研究
宇宙飛行士の代表的な仕事が、微小重力や高真空といった宇宙ならではの環境を生かした実験です。研究テーマは物理学や材料科学から、医学や生物学まで多岐にわたります。
国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」では、新薬の候補となるたんぱく質の結晶を作る実験や、無重力が人体に与える影響の研究などが行われてきました。地上では得られないデータを集め、科学や産業の発展に役立てることが目的です。
船内システムの運用と船外活動
宇宙飛行士は、生命を支える国際宇宙ステーションのシステムを正常に保つ役割も担います。空調や電力、水の循環といった装置の点検や修理、補給船が到着する際の受け入れ作業などが日々の任務です。
ステーションの外での作業は船外活動と呼ばれ、宇宙服を着て機器の設置や交換を行います。真空と激しい温度差にさらされる危険な作業のため、地上での入念な訓練とチームでの連携が欠かせません。
地上での業務
宇宙飛行士は、地球にいる期間も多くの業務を抱えています。次のミッションに備えた訓練を続けながら、宇宙で使う実験装置の開発や、運用計画の立案にも関わります。
宇宙にいる仲間を地上から支えるサポート業務も重要な仕事です。加えて、講演会やイベント、教育プログラムへの参加を通じて、宇宙開発の意義を社会に伝える広報の役割も担っています。
宇宙での日常生活
国際宇宙ステーションでの生活は、グリニッジ標準時を基準に管理されています。平日は1日約8時間の作業を行い、土日は基本的に休養にあてる、地上と近いリズムで過ごします。
食事はフリーズドライやレトルトを中心に300種類以上が用意され、カレーやラーメンなどのJAXA認証の宇宙日本食も楽しめます。睡眠は個室で寝袋を壁に固定してとり、尿や汗は浄化して約98%を飲み水として再利用する仕組みが整えられています。
宇宙飛行士に求められる資質
宇宙飛行士に求められるのは、特別な才能よりも、極限環境で成果を出すための総合的な人間力です。多国籍のチームで長期間活動するため、専門知識と同じくらい人柄や協調性が重視されます。
JAXAが選抜で評価するのも、協調性、適応力、幅広い専門性といった資質です。ここでは代表的な3つの資質を具体的に見ていきます。
協調性とチームワーク
宇宙飛行士にとって、チームワークは任務の成否を左右する最も重要な資質です。国際宇宙ステーションでは、異なる国や文化の飛行士が狭い空間で数か月にわたり生活と仕事を共にします。
リーダーとしてメンバーを率いる場面もあれば、船長を支えて全体を円滑に動かす場面もあります。多様性を尊重しながら、日本の代表としてミッションを成功へ導く協調性が欠かせません。
極限環境への適応力
宇宙という予測できない環境で冷静に行動できる適応力も、宇宙飛行士に不可欠です。無重力や閉鎖空間という特殊な状況に心身を合わせ、平常心を保つ力が求められます。
トラブルが起きた際には、限られた情報から適切に判断し、素早く行動しなければなりません。自らを律しながら、状況に応じて柔軟に思考を切り替える強さが重視されます。
幅広い専門性と学習意欲
宇宙飛行士には、自分の専門を持ちつつ、他の分野にも柔軟に対応できる幅広さが求められます。実験、機器の操作、医学的な自己管理など、担当する業務が多岐にわたるためです。
過去の合格者には、医師、研究者、パイロット、エンジニアなど、さまざまな経歴の人がいます。共通しているのは、新しい知識を貪欲に吸収し、学び続ける姿勢を持っている点です。
宇宙飛行士になるための選抜試験
日本で宇宙飛行士になるには、JAXAが実施する選抜試験に合格することから始まります。試験は数千人が応募して数名しか通らない、非常に狭き門です。
2021年からは応募条件が大きく緩和され、学歴や文系理系を問わず挑戦できるようになりました。ここでは応募条件、試験の流れ、倍率、条件緩和の背景を順に解説します。
JAXA選抜試験の応募条件
JAXAの宇宙飛行士候補者に応募するには、身体面と経歴面の要件を満たす必要があり、逆に言えば宇宙飛行士になれない条件も存在します。身体要件では、身長149.5〜190.5cm、両眼とも矯正視力1.0以上、色覚と聴力が正常であることなどが求められます。
経歴面では、自然科学系分野で3年以上の実務経験が目安とされています。年齢の上限は設けられておらず、虫歯があっても治療していれば応募に支障はありません。
| 項目 | 主な要件 |
|---|---|
| 身長 | 149.5cm以上190.5cm以下 |
| 視力 | 両眼とも矯正視力1.0以上 |
| 色覚・聴力 | 正常であること |
| 実務経験 | 自然科学系分野で3年以上が目安 |
選抜試験の流れと内容
宇宙飛行士選抜試験は、書類選抜から始まり、複数の段階を経て候補者を絞り込みます。直近の募集では、書類選抜、0次選抜、1次選抜、2次選抜、3次選抜という段階を約10か月かけて通過する形でした。
0次選抜では、一般教養試験と理工系分野のSTEM試験をオンラインで受けます。後半の選抜では、医学検査や面接、閉鎖環境での適性評価などを通じて、心身の適性やチームでの振る舞いが細かく見られます。
選抜試験の倍率
宇宙飛行士の選抜試験は、日本でも屈指の高倍率で知られています。2022年に実施された第6期の募集では、4127名が応募し、認定されたのは2名だけでした。
このときの倍率は2000倍を超え、大きな話題となりました。過去の第5期でも963名の応募に対し選抜は3名で、いずれの回も極めて狭き門となっています。
学歴不問となった募集の背景
2021年の募集からは、それまで条件だった「理系大学卒業」が撤廃されました。学歴を問わず、文系や理系の区別なく応募できるようにしたのは、世界でも日本が初めての試みです。
背景には、月や火星をめざす時代に多様な人材が必要という考えがあります。学歴で入り口を狭めるのではなく、選抜試験の中で一般教養やSTEMの力を直接評価する方針へと切り替えられました。
宇宙飛行士が受ける訓練
選抜試験に合格しても、すぐに宇宙へ行けるわけではありません。宇宙飛行士候補者は、JAXA入構後に約2年間の基礎訓練を受け、修了して初めて正式な宇宙飛行士として認定されます。
その後もミッションに向けた訓練は続き、認定後は生涯にわたって学び続けることになります。ここでは基礎訓練、搭乗訓練、認定後の訓練という3段階に分けて内容を紹介します。
入構後に受ける基礎訓練
基礎訓練は、宇宙飛行士に必要な知識と技能を身につける最初の段階です。工学や科学の基礎、国際宇宙ステーションや日本実験棟「きぼう」のシステム、健康管理や体力づくりなどを幅広く学びます。
訓練項目は約230科目、時間にして約1600時間にのぼるとされています。航空機の操縦、語学、サバイバル技術、スキューバダイビングなど、実技を伴う訓練も数多く含まれます。
ISS搭乗に向けた訓練
搭乗するミッションが決まると、その内容に合わせた専門的な訓練が始まります。担当する実験や操作、飛行スケジュールに応じて、必要な手順を一つずつ習得していきます。
この搭乗訓練は、日本だけでなくアメリカやロシアなど各国の施設で行われます。期間はおおむね1年から2年半に及び、実際の任務を想定した実践的な内容が中心です。
認定後も続く訓練
宇宙飛行士は、認定を受けた後も訓練を欠かしません。ミッションの合間にも、知識や技能を維持し高めるための取り組みを続けます。
近年は、月をめざすアルテミス計画に向けた新しい訓練も加わっています。月面での活動や、月周回拠点「ゲートウェイ」での運用を想定した準備が、これからの宇宙飛行士に求められています。
宇宙飛行士の年収
宇宙飛行士の年収は、所属する組織の給与規程に沿って決まります。日本の宇宙飛行士はJAXAの職員であり、特別に高額というわけではなく、専門職として安定した水準に位置します。
JAXA職員の平均年収は約867万円とされ、宇宙飛行士もこれに近い水準と考えられます。ここでは日本の年収の目安、経歴による違い、海外との比較を見ていきます。
日本の宇宙飛行士の年収
日本の宇宙飛行士は、国立研究開発法人であるJAXAに所属する職員です。給与は公務員に準じた「みなし公務員」の扱いで、経歴や年齢に応じて規程どおりに決まります。
たとえば30歳の場合、本給は月額約32万円が目安とされています。これに年2回の賞与や、宇宙飛行士手当などの諸手当が加わり、年収はおおむね500万円以上になる計算です。
学歴や経験による給与の違い
宇宙飛行士の給与は、入構時の学歴や実務経験によって差がつきます。学歴が高いほど、また経験が長いほど、初任給や本給が高く設定される仕組みです。
勤続5年時点の年収の目安は、次のように整理できます。あくまで一例であり、実際の額は個人の経歴によって変わります。
| 学歴 | 勤続5年時点の年収の目安 |
|---|---|
| 短大卒 | 約490万円 |
| 学士 | 約550万円 |
| 修士 | 約590万円 |
| 博士 | 約640万円 |
NASAなど海外との比較
海外に目を向けると、宇宙飛行士の給与は国の公務員制度に沿って決まる点は共通しています。アメリカのNASAでは、新人はGS-12という等級から始まり、2025年時点の初任給は年およそ10万ドルとされています。
多くのNASA飛行士はGS-13やGS-14の等級に位置し、経験に応じて昇給していきます。日本もアメリカも、宇宙飛行士は民間の高給職というより、国の専門職として位置づけられている点が共通しています。
日本人宇宙飛行士の今後の展望
日本人宇宙飛行士は、これまで宇宙開発の第一線で成果を積み重ねてきました。2026年時点では、活動の舞台が地球周回軌道から月へと広がる大きな転換期を迎えています。
新たに認定された飛行士や、月面着陸に向けた計画も動き始めています。ここではこれまでの歩み、現役の顔ぶれ、月をめざす計画、そしてその先の活動の場を見ていきます。
これまでの日本人宇宙飛行士
日本人で初めて宇宙へ行ったのは、1990年にソユーズで飛行した秋山宇宙飛行士(秋山豊寛氏)です。以降、毛利衛氏や宇宙飛行士の向井千秋氏、宇宙飛行士の野口聡一氏、山崎直子宇宙飛行士、若田光一氏らが活躍し、日本人の宇宙飛行士は2026年時点で歴代14名を数えます。
若田光一氏は日本人最多となる5回の宇宙飛行を経験し、国際宇宙ステーションの船長も務めました。歴代の飛行士たちが築いた実績が、現在の日本の宇宙開発の土台になっています。
現役で活躍する宇宙飛行士
2026年時点で、JAXAに所属して活動を続ける現役の宇宙飛行士は6名です。2024年10月には、13年ぶりの新人となる米田あゆ氏と諏訪理氏の2名が正式に認定されました。
米田氏は東京大学医学部を卒業した医師で、現役の女性の宇宙飛行士としては唯一の存在です。諏訪宇宙飛行士(諏訪理氏)は地球科学の博士号を持ち、世界気象機関や世界銀行での勤務経験を持つ異色の経歴の持ち主です。
アルテミス計画と月面着陸
これからの日本人宇宙飛行士にとって、最大の目標が月面着陸です。日米両政府の合意により、将来のアルテミス計画で日本人2名が月面に降り立つことが決まっています。
実現すれば、アメリカ人以外で初めて月に立つのは日本人となる見通しです。着陸の時期は2020年代後半以降のミッションが目標とされていますが、計画の進み具合によって前後する可能性があります。
国際宇宙ステーション後の活動の場
長年活動の中心だった国際宇宙ステーションは、2030年に運用を終える予定です。その後、飛行士たちの活動は月や、民間が運営する新しい宇宙ステーションへと移っていきます。
JAXAは、国際宇宙ステーションの後継として商業宇宙ステーションの利用を計画しています。月をめざすアルテミス計画と合わせ、日本人宇宙飛行士が活躍する舞台は今後さらに広がっていくと見込まれます。
まとめ:宇宙飛行士は多様な人に門戸が開かれた専門職へ変わりつつある
本記事では、宇宙飛行士の定義や仕事内容、求められる資質、選抜試験や訓練といったなり方、年収、そして日本人宇宙飛行士の今後の展望まで解説してきました。宇宙飛行士は高度な訓練を積んだ専門職でありながら、2021年からは学歴を問わず誰もが挑戦できる仕事へと変わりつつあります。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 宇宙飛行士は宇宙での実験や運用と地上業務を担う専門職
- JAXAの選抜試験と約2年の基礎訓練を経て認定される
- 学歴不問の募集や月面着陸計画で活躍の場が広がっている
宇宙飛行士という仕事の全体像がつかめたことで、自分にどんな準備が必要かが見えてきたのではないでしょうか。
活躍の舞台は国際宇宙ステーションから月へと広がり続けており、最新の動向を追うことが挑戦への第一歩になります。宇宙開発や宇宙ビジネスについてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ当メディアの情報もあわせてご活用ください。
宇宙飛行士に関するよくある質問
参考文献
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執筆者
編集部
「宇宙ビジネスを、ビジネスとして読む。」をコンセプトに、国内外の宇宙産業(衛星・ロケット・宇宙データ・月面開発等)の動向を追う専門記者・アナリスト集団。AI時代に信頼される一次情報源を目指し、ファクトとデータに基づく客観的な分析・解説を日々お届けします。
監修者
リサーチチーム
専門アナリストらと提携し、データ収集・分析を行うSpace Withの専門調査部門。国内外の宇宙政策、政府予算、資金調達動向、技術トレンドの定量的な分析とファクトチェックを行い、本メディアが配信する情報の信頼性と客観性を担保します。
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