宇宙服はなぜ作れないのか?新型開発を阻む技術的な壁を解説
この記事のポイント
宇宙服はなぜ作れないのかという疑問の答えは、現行機の老朽化、素材と気密性、生命維持システムと可動性の両立という技術的な壁、開発コストとスケジュール、認証基準という構造的な壁が重なっている点にある。2024年にはコリンズ・エアロスペース社が契約を縮小した。
「40年前から同じ宇宙服が使われ続けていると聞いたけれど、なぜ新しい宇宙服がなかなか作れないのだろう。都市伝説なのか、それとも本当に技術的な理由があるのか知りたい」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- 新型宇宙服の開発が難航している現状と経緯
- 素材や生命維持システムに関わる技術的な壁
- 開発コストとスケジュールを阻む構造的な壁
宇宙服なぜ作れないと言われる背景には、都市伝説では説明しきれない技術と体制の壁が重なっています。
本記事を読めば、新型宇宙服の開発が難航する理由を、技術面と体制面の両方から正しく理解できます。噂に惑わされず、開発の現状を知りたい方はぜひ最後まで読み進めてください。
宇宙服はなぜ作れないと言われるのか
宇宙飛行士とは何かと関連して宇宙服なぜ作れないという疑問が広まる理由は、現役の船外活動用宇宙服が長年にわたって同じ設計のまま使われ続けているためです。新しい技術があるはずなのに更新されない状況が、都市伝説めいた噂を生む土壌になっています。
ここでは、現行の宇宙服がどれだけ古いのか、新型宇宙服の開発がどのように進められてきたのか、そして開発が難航する理由の全体像を整理します。
40年以上同じ宇宙服が使われ続けている現状
NASAが国際宇宙ステーションで使用する宇宙服である船外活動ユニットは、1970年代から1980年代にかけて製作されたものです。設計寿命はおよそ15年とされていましたが、2026年時点で40年以上にわたり運用が続いています。
もともと18着が製造されましたが、事故や損耗によって7着は使用できなくなりました。残る11着を修理しながら回している状態で、部品の劣化リスクは年々高まっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製造時期 | 1970年代後半〜1980年代 |
| 設計寿命 | 約15年 |
| 現在の使用年数 | 40年以上 |
| 製造数 | 18着 |
| 現存する使用可能数 | 11着程度 |
過去には船外活動中にヘルメット内へ水が漏れ出し、窒息の危険にさらされた事例も報告されました。老朽化した宇宙服を使い続けること自体が、すでに安全上のリスクになっています。
新型宇宙服の開発計画とこれまでの経緯
NASAは月面探査計画のために、新しい宇宙服の開発を独自に進めていました。2019年には試作機となる探査船外活動ユニットを発表し、月面での活動に耐えられる性能を目指しています。
その後NASAは開発方針を転換し、民間企業へ製造を委託する形式に切り替えました。2022年にはアクシオム・スペース社とコリンズ・エアロスペース社の2社が、次世代宇宙服の開発企業として選ばれています。
アクシオム・スペース社は高級ブランドのプラダと協業し、機能性とデザイン性を兼ね備えた新型宇宙服の開発を進めてきました。2025年には無人での熱真空試験を完了させるなど、実用化に向けた段階を着実に進めています。
開発が難航する主な理由の全体像
新型宇宙服の開発が長引く背景には、単一の原因ではなく複数の要因が絡み合っています。技術面では、極限環境に耐える素材の選定や気密性の確保が大きな壁になります。
体制面でも課題は少なくありません。担当企業の一社であったコリンズ・エアロスペース社は、2024年にスケジュールの遅延と費用超過を理由に契約範囲の縮小をNASAと合意し、開発の一線から退いています。
こうした技術的な壁と構造的な壁が同時に存在することが、宇宙服なぜ作れないという疑問の核心です。次の章からは、それぞれの壁を具体的に見ていきます。
素材と気密性に立ちはだかる技術的な壁
宇宙服なぜ作れないという問いに対して、最初にぶつかる壁は素材と気密性の技術です。宇宙空間は真空で温度差も極端なため、体を守る布地には特別な性能が求められます。
ここでは、多層構造の設計、関節部の気密性と可動性の両立、そして新素材を採用するまでにかかる時間について解説します。
真空と温度差に耐える多層構造の設計
船外活動用の宇宙服は、ナイロンやポリエステルフィルム、耐熱繊維などを重ねた十数層の布地でできています。1枚の生地では、気密の保持と断熱、放射線からの防護をすべて満たせないためです。
宇宙空間は太陽が当たる面ではプラス120度前後、影になる面ではマイナス150度前後まで温度が変化します。この寒暖差に耐えながら気圧を保つには、層ごとに役割の異なる素材を精密に組み合わせる設計が欠かせません。
| 主な層 | 役割 |
|---|---|
| 内側の冷却下着 | 体温の調整 |
| 気密層 | 気圧の保持 |
| 拘束層 | 気密層の膨張を抑える |
| 断熱層 | 温度変化からの保護 |
| 外層 | 微小隕石や放射線への対策 |
こうした構造は一体成形で作れるものではありません。各層を丁寧に縫い合わせる工程が必要で、開発に時間がかかる要因の一つになっています。
気密性と可動性を両立させる関節部の難しさ
宇宙服は内部の気圧によって風船のように膨らむ性質があります。そのままでは腕や脚を曲げにくく、船外活動に必要な作業をこなせません。
関節部分には、機械の軸受けに使われるベアリング構造や、義肢の技術を応用した可動部が組み込まれています。諏訪宇宙飛行士の解説などでも触れられるように、気密性を保ちながら滑らかに動く仕組みを作るのは、宇宙服開発の中でも特に難易度の高い分野です。
肩や股関節のように可動域が広い部位ほど、気密性とのバランスを取るのが難しくなります。動きやすさを優先すると気密の維持が難しくなり、気密性を優先すると動きが制限されるという、相反する要求への対応が求められます。
新素材の採用と安全性検証にかかる時間
宇宙服に使う素材は、性能を高めるだけでなく人命に関わる安全性の検証も必要です。JAXAが研究してきた冷却下着用のナノファイバー素材も、実用レベルに達するまで5年から6年ほどの研究期間を要しました。
宇宙飛行士野口らが着用した既存の宇宙服とは異なり、新型宇宙服のAxEMUでは、外装デザインや素材選定の面でプラダとの協業が2023年から始まっています。新しい素材を採用する場合、真空環境での耐久試験や熱変化への耐性試験など、段階を踏んだ検証を重ねなければなりません。
こうした試験には長い期間とコストがかかるため、開発スピードを大きく左右する要因となっています。素材選定の慎重さこそが、宇宙服なぜ作れないという疑問の技術的な答えの一つです。
生命維持システムと可動性を両立させる壁
宇宙服なぜ作れないという疑問を掘り下げると、外側の素材だけでなく内部の生命維持システムにも大きな壁があるとわかります。宇宙飛行士の命を支える機能と、体を自由に動かす機能を同時に満たす必要があるためです。
ここでは、内部システムの複雑さ、可動性と防護性能のトレードオフ、そして個人ごとの体格対応について見ていきます。
酸素供給と体温調整を担う内部システムの複雑さ
宇宙服の背中には、主生命維持装置と呼ばれる小型の機器が搭載されています。酸素の供給、呼気に含まれる二酸化炭素の除去、内部の気圧と湿度の調整をこの一台でまかなう仕組みです。
体温の調整も簡単ではありません。宇宙空間そのものは低温でも、太陽光が直接当たる場面では服の内部が高温になりやすく、体から出る熱を逃がす経路も限られています。冷却服と呼ばれる水を循環させる下着を組み合わせることで、体温の上昇を抑えています。
これらの機能はすべて、宇宙服という限られたスペースの中に収める必要があります。1つの装置に複数の役割を持たせながら故障のリスクを下げる設計は、開発の難易度を押し上げる要因です。
手足の動きやすさと防護性能のトレードオフ
宇宙飛行士向井千秋のような過去の宇宙飛行士たちの経験からもわかるように、宇宙服には、微小な隕石の破片や強い放射線から体を守る防護性能も求められます。防護性能を高めようとすると生地は厚く重くなり、腕や脚の動きが制限されやすくなります。
反対に、動きやすさを優先して生地を薄くすれば、防護性能や気密性が低下する懸念が生じます。宇宙飛行士になれない条件に関わるような身体的な負担を減らしつつ、船外活動では手先の細かい作業も必要になるため、グローブの部分では特にこのバランスが重要です。
次世代宇宙服の開発では、モジュール構造を採用し、任務内容に応じて部品を組み替えられるようにする工夫が進められています。防護と可動性という相反する条件を、状況に応じて調整できる仕組みづくりが課題の解決策として注目されています。
個人ごとのサイズ調整とカスタマイズの負担
歴史をふり返ると、アポロ計画の時代の宇宙服は宇宙飛行士1人ひとりに合わせた完全オーダーメイドで作られていました。任務ごとに使い切りだったため、製作には大きな手間がかかっていました。
その後のEMUでは、パーツを組み合わせたり延長リングを使ったりすることで、複数の飛行士がある程度共用できる設計に改良されています。一方でロシアのオーラン宇宙服は、腕や脚の長さを絞って調節する方式を採用しており、国や機体によって考え方が異なります。
体格の異なる飛行士に対応しながら、量産できる設計にまとめる作業は簡単ではありません。個人対応と効率性を両立させる工夫も、宇宙服なぜ作れないという課題を解く重要な要素です。
開発コストとスケジュールを阻む構造的な壁
宇宙服なぜ作れないという問題は、技術だけでなくお金と体制の面にも壁があります。開発費の規模や契約の仕組みが、新型宇宙服の完成を遅らせる要因になっているためです。
ここでは、開発にかかる費用の規模、民間企業の契約撤退、そして安全基準の厳しさについて解説します。
1着あたり数十億円規模にのぼる開発費用
スペースシャトル時代に使われた船外活動ユニットは、宇宙服本体と生命維持装置をあわせて開発するのに約200億円がかかったとされています。1着あたりの価格に換算すると、宇宙服本体だけでおよそ1億5千万円、生命維持装置は13億円を超える計算です。
宇宙飛行士になるにはという夢を支える次世代宇宙服の開発ではさらに大きな予算が投じられています。ある時点までにすでに460億円が使われ、アルテミス計画向けの2着を製造するにはさらに690億円が必要とされ、開発総額は10億ドルを超える規模に達しています。
| 費用の種類 | 金額の目安 |
|---|---|
| 従来型宇宙服本体 | 約1億5千万円 |
| 従来型生命維持装置 | 約13億円 |
| 次世代宇宙服の開発総額 | 10億ドル超 |
このような巨額の費用がかかる背景には、少量生産であることと、試験や検証に多くの人手と時間を要することがあります。量産される工業製品とは異なり、コストを下げにくい構造になっています。
民間企業の契約撤退と開発体制の再編
NASAは2022年、宇宙ヘルメットから生命維持装置までを含む次世代宇宙服の開発企業としてアクシオム・スペース社とコリンズ・エアロスペース社の2社を選定しました。国際宇宙ステーション向けと月面探査向けで、それぞれ担当を分ける計画でした。
しかしコリンズ・エアロスペース社は、開発スケジュールの遅れと費用の超過を理由に、2024年6月に契約範囲の縮小をNASAと合意しました。国際宇宙ステーション向け宇宙服の実証は打ち切られ、次世代宇宙服の開発はアクシオム・スペース社が中心を担う形に再編されています。
このように、一度契約した企業が撤退や縮小に至るケースは珍しくありません。開発体制の見直しが発生するたびにスケジュールが後ろ倒しになり、完成までの時間がさらに延びていきます。
認証プロセスと安全基準の厳しさ
宇宙服は宇宙飛行士の命を直接守る装備であるため、完成後にも厳格な検証を通過しなければなりません。無人での熱真空試験や、プールを使った模擬船外活動訓練など、段階を踏んだ試験が繰り返し行われます。
NASAの監査でも、新型宇宙服の開発が計画から20か月遅れているとの指摘がなされたことがあります。安全性を確認する工程を省略できない以上、開発の遅れは避けにくい構造になっています。
コストとスケジュール、そして安全基準という3つの制約が同時に課される点も、宇宙服なぜ作れないという疑問に対する現実的な答えです。
まとめ:新型宇宙服が作れないのは技術と体制の壁が重なっているから
本記事では、宇宙服なぜ作れないという疑問について、現行宇宙服の老朽化と開発経緯、素材や気密性の技術的な壁、生命維持システムと可動性の両立、そして開発コストとスケジュールを阻む構造的な壁まで解説してきました。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 現行の宇宙服は設計寿命を大幅に超えて使われている
- 素材・気密性・生命維持システムに多くの技術的な壁がある
- 開発費とスケジュール、安全基準の厳しさが完成を遅らせている
新型宇宙服の開発が長引く理由は、都市伝説ではなく、複数の技術的な壁と構造的な壁が同時に立ちはだかっているためだとわかります。開発の現状を正しく理解できれば、今後のニュースもより深く読み解けるはずです。
宇宙開発や宇宙ビジネスの最新動向について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ当メディアの情報もあわせてご活用ください。
宇宙服なぜ作れないに関するよくある質問
参考文献
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執筆者
編集部
「宇宙ビジネスを、ビジネスとして読む。」をコンセプトに、国内外の宇宙産業(衛星・ロケット・宇宙データ・月面開発等)の動向を追う専門記者・アナリスト集団。AI時代に信頼される一次情報源を目指し、ファクトとデータに基づく客観的な分析・解説を日々お届けします。
監修者
リサーチチーム
専門アナリストらと提携し、データ収集・分析を行うSpace Withの専門調査部門。国内外の宇宙政策、政府予算、資金調達動向、技術トレンドの定量的な分析とファクトチェックを行い、本メディアが配信する情報の信頼性と客観性を担保します。
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