宇宙服とは?構造・種類・値段をわかりやすく解説【2026年】
この記事のポイント
宇宙服は船内服と船外活動服の2種類に分かれ、14層の素材と生命維持装置で真空や高温から宇宙飛行士を守る。値段は1着約10億円、重さは船外服で約120キロ。アクシオム・スペース等民間企業が月面向け次世代宇宙服の開発を進めている。
「宇宙服はどんな仕組みで宇宙飛行士を守っているのか知りたい。値段や重さ、船内服と船外活動服の違いも気になる」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- 宇宙服の基本的な役割と種類
- 構造・重さ・値段の実態
- 各国と民間企業が開発する最新の宇宙服
宇宙服は、宇宙飛行士を真空や放射線、極端な温度差から守る生命維持装置です。船内で着る与圧服と、船外活動用のスーツでは役割や構造が大きく異なります。
本記事を読めば、宇宙服の仕組みから値段、各国や民間企業による最新の開発動向までを一度に理解できます。宇宙開発の今を知る手がかりとして、ぜひ最後まで読み進めてください。
宇宙服とは何か
宇宙服とは、宇宙飛行士が宇宙空間で安全に生存し活動するために着用する、生命維持装置を備えた気密服です。宇宙船内で着る船内服と船外活動時に着る船外服、大きく2種類に分かれます。
宇宙服が果たす基本的な役割
宇宙服の役割は、宇宙という特殊な環境から宇宙飛行士の身体を守ることです。真空状態、極端な熱環境、微小な宇宙塵などの脅威に対応する必要があります。
内部に酸素を満たして与圧を保ち、どのような作業条件でも服内の温湿度を一定に保つ機能を備えています。呼吸で生じた二酸化炭素を取り除き、必要な酸素を供給し続ける生命維持装置も一体化した仕組みです。
宇宙服が守る宇宙空間の過酷な環境
宇宙空間は、地球の大気に守られた環境とはまったく異なります。真空状態のため、宇宙服を着用しなければ体内の気圧を保てず、生命の維持ができません。
太陽に面した側と影の側では温度差が非常に大きく、微小な宇宙塵が高速で衝突する危険もあります。宇宙服はこうした複数の脅威から同時に身体を守る、精密な生命維持システムです。
宇宙服という言葉の由来と歴史
世界初の与圧服のプロトタイプは、1931年に旧ソ連のエフゲニー・チェルトフスキーが開発した「スカファンドル」とされています。実用的な与圧服は1934年、アメリカの飛行士ワイリー・ポストがタイヤメーカーや技術者の協力を得て完成させました。
その後1965年には旧ソ連のアレクセイ・レオーノフが史上初の船外活動を行い、このとき着用した「ベルクート」が実用的な船外活動服の先駆けとなりました。航空機パイロット用の与圧服から発展を重ね、現在の高性能な宇宙服へとつながっており、日本の大西卓哉宇宙飛行士らもこうした最先端の装備に支えられて活動しています。
宇宙服の種類と違い
宇宙服は、着用する場面によって船内服と船外活動服の2種類に大きく分かれます。それぞれ求められる機能が異なるため、構造や気密性のレベルにも違いがあります。
船内服(与圧服)とは
船内服は、打ち上げ時や地球への帰還時に着用する宇宙服です。内部の気圧を宇宙船内と同じ状態に保つことから、与圧服とも呼ばれます。
万が一宇宙船内の気圧が低下するトラブルが起きても、与圧服が体内の気圧を保ち生命を維持します。スペースXの与圧服は社内で製造されており、3Dプリンター製のヘルメットやタッチスクリーン対応グローブを採用するなど、従来の与圧服とは異なる設計が特徴です。
船外活動服(EVAスーツ)とは
船外活動服は、宇宙船の外で作業を行う船外活動の際に着用する宇宙服です。装置の組み立てや修理、衛星の点検といった作業を、真空の宇宙空間で安全に行うための装備になります。
国際宇宙ステーションでは、アメリカの船外活動ユニット(EMU)とロシアのオーラン宇宙服が代表的な船外活動服です。どちらも与圧服より高い防護性能を備え、単独で宇宙空間に出られる構造になっていますが、こうした命がけの過酷な作業は宇宙飛行士の年収や待遇が議論される背景の一つにもなっています。
船内服と船外活動服の違いを比較
船内服と船外活動服は、用途と構造の両面で明確に異なります。船内服は宇宙船内での気圧維持が主な目的である一方、船外活動服は真空の宇宙空間そのものに対応する必要があります。
| 項目 | 船内服(与圧服) | 船外活動服(EVAスーツ) |
|---|---|---|
| 主な用途 | 打ち上げ・帰還時の着用 | 宇宙船外での作業 |
| 気密性 | 船内気圧の維持が中心 | 単独で真空に対応 |
| 代表例 | スペースXの与圧服 | アメリカのEMU、ロシアのオーラン |
| 内部気圧 | 船内環境に準じる | EMUは約0.3気圧、オーランは約0.4気圧 |
このように、宇宙服は場面ごとに設計思想が異なる装備です。宇宙飛行士は目的に応じて2種類の宇宙服を使い分けています。
宇宙服の構造と仕組み
宇宙服は、複数の層と装置を組み合わせた精密なシステムです。素材の重なり、ヘルメット、生命維持装置、冷却下着がそれぞれ役割を分担しています。
宇宙服を構成する14層の素材
船外活動用の宇宙服は、ナイロンやダクロン、アルミ蒸着マイラー、ゴアテックスなど14層の布地から作られています。層ごとに異なる機能を持たせているのが特徴です。
1〜3層は冷却下着の層で、体温を調整する役割を担います。4〜5層は気密性を保つ層、6〜14層は微小隕石や高温といった外的要因から身体を守る保護層です。
ヘルメットとバイザーの機能
ヘルメットは、視界を確保するバイザーに加え、暗所作業用のライトやカメラを備えています。素材には耐圧性のある透明なプラスチック、ポリカーボネートが使われることが一般的で、ヘルメット着用中は宇宙食ラーメンなどの飲食もできなくなるため、長時間の作業には入念な準備が求められます。
バイザーは、強い太陽光から宇宙飛行士の目を保護する役割を持ちます。作業状況に応じて諏訪宇宙飛行士をはじめとする宇宙飛行士自身が手動で調整する仕組みです。
生命維持装置の役割
生命維持装置は、宇宙服の中でも中心的な機能を担う装置です。呼吸で排出された二酸化炭素を取り除き、必要な酸素を供給し続けます。
あわせて、宇宙空間に熱を逃がすラジエーターの役割も果たしています。宇宙飛行士が長時間の船外活動を安全に続けられるのは、この装置があるからです。
冷却下着で体温を調整する仕組み
冷却下着は、素肌の上に着用する下着で、細いチューブを網の目のように編み込んだ構造をしています。チューブに冷却水を流すことで、活動による体温上昇を防ぐ仕組みです。
チューブの総延長は約84メートルにおよび、一度に使う水の量はおよそ5リットルとされます。近年は水冷と空冷を組み合わせ、チューブの長さを従来より短縮した冷却下着の開発も進んでいます。
宇宙服の重さと値段
宇宙服は種類によって重さと値段が大きく異なります。船外活動服は重く高価であるのに対し、最新の船内服は軽量化が進んでいます。
宇宙服はどのくらいの重さがあるのか
アメリカが開発した船外活動ユニット(EMU)は、宇宙服アセンブリと生命維持システムの2つの部分で構成され、総重量は約120キロにおよびます。ロシアのオーラン宇宙服も同様の構成を一体化した形で持ち、重量は同程度とされる装備です。
一方、スペースXがクルードラゴンで採用した船内与圧服は、総重量が約10キロと大幅に軽量化されています。3Dプリンター製のヘルメットやタッチパネル対応グローブを採用し、従来の与圧服とは異なる設計が特徴で、宇宙での交信方法に関する機能も現代的にアップデートされています。
宇宙服の値段はいくらするのか
アメリカの船外活動ユニットは、1着あたり約10億5000万円という高額な価格になります。内訳を見ると、生命維持システムだけで約9億5000万円、宇宙服アセンブリの上下セットで約1億円が目安です。
次世代型のEMUプロトタイプでは、価格が15億円を超えると見込まれています。船外活動服は、それだけ高度な機能と安全性を求められる装備といえ、これを着用できるのは難関の宇宙飛行士選抜試験を突破した限られた人材のみです。
開発コストが高額になる理由
宇宙服が高額になる理由の1つは、14層の特殊素材を使う複雑な構造です。素材の縫製には高度な技術を持つ職人による手作業が必要で、精密かつ時間のかかる工程が欠かせません。
もう1つの理由は、生命維持装置や通信設備など多くの機能を1着に詰め込んでいる点です。NASAはこれまで宇宙服の開発だけで10年間に2億ドルを投じており、単なる衣服ではなく高度な生命維持システムであることが、価格の高さに直結しています。
各国の宇宙服の特徴
宇宙服は開発した国や機関によって設計思想が異なります。アメリカ、ロシア、中国それぞれの宇宙服には、独自の工夫が見られます。
アメリカの船外活動ユニットEMU
アメリカの船外活動ユニット(EMU)は、宇宙服アセンブリと生命維持システムが別々に分かれた構造です。地上に回収したのちに整備し再利用することを前提に設計されており、寿命は30年と長く設定されています。
内部気圧は約0.3気圧に保たれ、国際宇宙ステーションでの船外活動を長年支えてきた実績を持ちます。再利用を前提とした設計は、運用コストを抑える工夫でもあります。
ロシアのオーラン宇宙服
ロシアのオーラン宇宙服は、宇宙服アセンブリと生命維持システムが一体化した構造です。背面の開口部から服の中に入る仕組みのため、宇宙飛行士が1人でも短時間で装着できます。
内部気圧は約0.4気圧とEMUよりやや高めで、着用後に体内の窒素を抜くプリブリーズの待機時間は約30分と短めです。一定の使用期間・回数を経たあとは廃棄する前提で開発されており、EMUに比べて寿命は短く設定されています。
中国や民間企業が開発する宇宙服
中国は、神舟7号の船外活動に向けて「飛天」と呼ばれる独自の宇宙服を開発しました。2008年に宇宙飛行士がこの宇宙服を着用し、中国初の宇宙遊泳を行っています。
飛天は厚さ1.5ミリのアルミニウム合金製の胴体を持つ6層構造で、重さは約120キロから130キロです。最長8時間の船外活動が可能で、着脱に要する時間は約3分と短いことも特徴です。中国は月面用宇宙服の開発も進めており、有人宇宙開発における独自路線を強めています。
民間企業が開発する最新の宇宙服
近年は、民間企業による宇宙服開発が活発になっています。スペースXやアクシオム・スペースといった企業が、従来とは異なる発想で新しい宇宙服を生み出しています。
スペースXの船内服の特徴
スペースXの船内与圧服は、黒を基調としたスタイリッシュなデザインが特徴です。細身の胴体ラインと肩から膝までを継ぎ目なくつなぐシルエットに、ブーツのような靴を組み合わせています。
重さは約10キロと、従来のNASAの宇宙服の約42キロと比べて大幅に軽量です。この与圧服をもとに、可動性を高めた船外活動用スーツの開発も進められています。
月面探査向けの次世代宇宙服
NASAはアルテミス計画の月面探査に向けて、アクシオム・スペースを宇宙服の開発企業に選定しました。同社が開発する「AxEMU」は、かつて日本人初として宇宙を飛んだ秋山宇宙飛行士の時代から比べると、体格の異なる幅広い宇宙飛行士に対応できる飛躍的な進化を遂げた設計が特徴です。
単一の構造をベースにしながら、月面と低軌道の両方のミッションに適応できる拡張性を備えています。契約規模は最大35億ドルにおよび、月面探査を見据えた本格的な開発が進んでいる分野です。
商業宇宙ステーション時代に進む宇宙服開発
アクシオム・スペースは、宇宙服の外装デザインや素材選定でファッションブランドのプラダと連携しています。2026年6月には、AxEMUの下に着用するインナーレイヤーの液体冷却換気服が両社から発表されました。
商業宇宙ステーションの時代が近づくなかで、機能性だけでなくデザイン性も重視した宇宙服の開発が進んでいます。宇宙旅行の一般化とともに、宇宙服はさらに多様な企業が関わる分野へと広がっていくと見込まれます。
宇宙服にまつわる素朴な疑問
宇宙服については、構造や値段のほかにも生活に関わる素朴な疑問を持つ人が多くいます。トイレ事情や購入の可否、準備にかかる時間を見ていきます。
宇宙服の中でトイレはどうしているのか
船外活動中は、分厚い宇宙服を脱ぐことができません。そのため宇宙飛行士は、排泄を我慢するか、専用のおむつを着用するかのどちらかで対応します。
船外活動は長時間におよぶこともあり、排泄を我慢する時間が最長12時間にのぼるケースもあります。宇宙服の中は、快適さよりも安全性と作業効率を優先した設計になっています。
宇宙服は一般の人でも購入できるのか
実際に宇宙飛行士が使う本物の宇宙服を、一般の人が購入することはできません。ただし、地上での展示や記念用に作られたレプリカであれば購入が可能です。
NASAのアポロ計画で使われた船外活動服「A7L」のレプリカや、船内与圧服のレプリカなどが、専門ショップやオンライン通販で販売されています。撮影やイベント向けに、本物に近い素材で作られたレプリカをレンタルできるサービスもあります。
宇宙服を着るまでにかかる準備時間
船外活動服を着る前には、プリブリーズと呼ばれる準備作業が欠かせません。宇宙服内の気圧を下げる過程で、体内に溶け込んだ窒素を抜き、減圧症を防ぐための工程です。
従来の方式では準備に時間がかかっていましたが、運動を取り入れた方式の採用により、プリブリーズは2時間20分程度まで短縮されました。準備開始から船外へ出るまでは、合わせて4時間半ほどかかるのが目安です。
まとめ:宇宙服は宇宙飛行士の命を守る精密な生命維持装置
本記事では、宇宙服の基本的な役割から種類の違い、構造や仕組み、重さと値段、各国や民間企業による最新の開発動向までを解説してきました。宇宙服は単なる作業着ではなく、真空や温度差といった過酷な環境から宇宙飛行士を守る、精密な生命維持装置であることが分かります。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 宇宙服は船内服と船外活動服の2種類に分かれる
- 14層の素材と生命維持装置が宇宙飛行士の命を守る
- アメリカ・ロシア・中国・民間企業がそれぞれ独自の宇宙服を開発している
宇宙服の仕組みや値段を知ることで、宇宙飛行士がどれほど過酷な環境下で活動しているのかを具体的にイメージできるようになったのではないでしょうか。あわせて、民間企業による開発競争が、今後の宇宙旅行や月面探査をどう変えていくのかを考えるきっかけにもなります。
宇宙開発や宇宙ビジネスの最新動向について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ当メディアの情報もあわせてご活用ください。
宇宙服に関するよくある質問
参考文献
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執筆者
編集部
「宇宙ビジネスを、ビジネスとして読む。」をコンセプトに、国内外の宇宙産業(衛星・ロケット・宇宙データ・月面開発等)の動向を追う専門記者・アナリスト集団。AI時代に信頼される一次情報源を目指し、ファクトとデータに基づく客観的な分析・解説を日々お届けします。
監修者
リサーチチーム
専門アナリストらと提携し、データ収集・分析を行うSpace Withの専門調査部門。国内外の宇宙政策、政府予算、資金調達動向、技術トレンドの定量的な分析とファクトチェックを行い、本メディアが配信する情報の信頼性と客観性を担保します。
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